『言語と文化—言語学から読み解くことばのバリエーション』(くろしお出版)第2章を中心に、お話します。まず、前半では「遍く言語に適応しうると考えられる」言語の普遍性と、言語固有性・文化固有性について、「家族的類似性」・「階層分類」・「プロトタイプ理論」・「色彩分類」などを通して解説・検討します。後半では、言語普遍性と同時にそれと相対する概念、すなわち「異なる言語を話す者は、その言語の相違ゆえに異なったように思考する」と提唱するサピア・ウオーフ言語相対性仮説(Sapir-Whorf hypothesis, Whorfianism, linguistic relativity)を解説し、検証します。こうすることで言語固有性も考察します。具体的には、たとえば、日本語のように「本」「台」などの助数詞が顕著である言語を母語とする話者は、そうした助数詞の使用が相対的に顕著でない言語(例:英語)を母語とする話者とでは、「事象に対する概念が異なるかどうか」を考察します。さらに、「仮定法の時制の有無が概念に与える」研究という具体例を引用しながら、言語相対性仮説を支持する研究と、支持しない研究を中心に、認知言語学、特に認知意味論の視点から議論を進めます。
【キーワード】
経験主義(empiricism)を提唱したイギリスの哲学者ジョン・ロック(John Locke),タブラ・ラーサ(ラテン語: tabula rasa 「人は白紙で生まれてくる」の意), 経験主義 vs. 生得(自然)主義(nativism),生得要因(heredity 生まれ) vs. 環境要因(environment 育ち)[注:ことわざ「氏より育ち」を想起されたい],アメリカ心理学,John B. WatsonやBurrhus Frederic Skinnerに代表される行動主義(behaviorism),言語生得説を提唱したNoam Chomsky,和製英語【例:「サヨナラ本塁打」 vs. walk-off homerun,「デッドボール」 vs. hit by a pitch,「フルタイムリーガルアシスタント」】
なぜ現在地球上で6000以上とも言われる言語が話されているかについて興味があります。私の見解では、もともと一つの体系を持っていた言語が、人の移動に伴う環境の変化により、異なる言語が生まれていったのではないかと考えております。そこで興味深いのは、言語の類型です。「リンゴ」を「口にいれて咀嚼する」という行為を、日本語では「私はリンゴを食べた」(SOV)と表現するのに、英語では「I ate an apple.」(SVO)と表現する。この語順の違いの生起要因は、人の認知順序にあるのではないかと考えております。「言語」の面白い話を期待しております。 2014-05-20 10:19:06 フェルナンド / ID:41
【本講義の内容】
・「言語普遍性と言語固有性」(2)
[日本語では、有声音(濁音)のオノマトペが無声音(清音・半濁音)のオノマトペよりも大きな音や激しい程度【例:ごろごろ vs. ころころ、ざらざら vs. さらさら】を表しますが、英語ではそうした有声音と無声音の対立の体系的使用は認められません。つまり、すべての言語が普遍的な音象徴を必ずしも同じように使っているわけではないことがわかります。]
【キーワード】
言語共通性,「朝」の概念(ドイツ語 Morgen),認知文法,認知文法理論の創設者Ronald W. Langackerが唱える心理的な意味構築,construal(解釈・捉え方),認知言語学,比喩【例:感情の容器としてのカラダ),Mixtec(ミシュテカ:メキシコの原住民の言語[空間における参照物体の形状によって異なる語彙の使用]】,言語固有性【例:日本語のオノマトペ,有声[濁音] vs. 無声[清音・半濁音]】,音象徴
【参考文献】
Lakoff, George (1987) Women, Fire, and Dangerous Things: What Categories Reveal
about the Mind. Chicago: University of Chicago Press.
【キーワード】
Edward Sapir, Benjamin Lee Whorf, 言語決定仮説(強い仮説),言語相対性仮説(弱い仮説),英語の時制 vs. 日本語の時制,時制のシフト,時制の心理的距離感【例:現在形と過去形の混在】,時制選択の基準(可動的な日本語 vs. 固定的な英語),日本語での数の数え方に認められる規則性
【本講義の内容】
・「時制」
・「分離基底言語能力(SUP)モデル vs. 共通基底言語能力(CUP)モデル」
[「中国語話者は、反事実を表す仮定表現に対し、英語話者ほど反事実とは解釈しない」というサピア・ウオーフ仮説を支持するAlfred Bloomの研究と、それに対して「中国語話者も反事実を表す仮定表現を完全に理解できる」とサピア・ウオーフ仮説を支持しないTerry Kit-fong Auの研究を対照させながら、言語相対性仮説を検討します。]
【キーワード】
単なる条件文 vs. 反事実を表す仮定表現,仮定法過去(If A was/were the case, then B would be the case),仮定法過去完了(If A had been the case, then B would have been the case) ,有標化,心理的顕著さ,Alfred bloom,Terry Kit-fong Au,サピア・ウオーフ仮説,分離基底言語能力(SUP)モデル vs. 共通基底言語能力(CUP)モデル
【参考文献】
Au, T. K. (1983). Chinese and English counterfactuals: The Sapir-Whorf hypothesis revisited. Cognition, 15, 155-187.
Au, T. K. (1984). Counterfactuals: In reply to Alfred Bloom. Cognition, 17, 289-302.
Bloom, A. H. (1981). The linguistic shaping of thought: A study in the impact of language on thinking in China and the West. Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum Associates.