『言語と文化—言語学から読み解くことばのバリエーション』(くろしお出版)第4章を中心に、お話します。言語内変異は数多く存在します。「認知言語学」ゼミなど、これまでのゼミでは、言語普遍性と言語固有性を多様な視点から眺めてきましたが、言語固有性にも複数の要因―すなわち、言語内要因と社会的要因―が存在することを認識しなければなりません。言語内要因と社会的要因が関わり合っている、その顕著な例が方言です。本ゼミでは、言葉がどのようにして生まれ、伝播し、そして変化してゆくのか、こうした歴史的変遷の問題を社会言語学、とりわけ言語地理学・方言地理学の視点から論じます。上述の通り、言語内変異には複数の要因がありますが、本ゼミでは、主に「革新の中心」(center of innovation)という概念から捉えることにします。本ゼミでは日本語の変異研究に焦点を合わせながら解説しますが、「革新の中心」を理解するには、たとえば、アメリカ英語はイギリス英語より古く、カナダで話されているフランス語はフランスのフランス語より古いという事実を想起すると良いでしょう。また、本ゼミでは、東条操の『方言区画論』にも言及しますが、「革新の中心」という概念をより深く理解するために、柳田國男の『方言周圏論』で展開されている概念に従い言語分析を行なうことにします。
【キーワード】
文献 vs. 方言(中央語 vs. 地方語,上流階級・知識人 vs. 庶民,絶対年代 vs. 相対年代,書き言葉 vs. 話し言葉),音声言語 vs. 書記言語,共時相 vs. 通時相(例:[顔]の歴史,「カオ」・「ツラ」,上流階級 vs. 庶民),書き言葉 vs. 話し言葉,比較方言学(本土方言[五母音体系]と沖縄方言[三母音体系]の比較[例:「オモテ」vs.「ウムチ」]),東条操の『方言区画論』,等語線(isogloss),文献と方言に認められる変遷順序の矛盾,文献に基づく変遷順序 vs. 方言に基づく変遷順序(例:「くすりゆび」「べにさしゆび」)
【参考文献】
小林隆(2006)『方言が明かす日本語の歴史』岩波書店
Shibatani, M.(1990). The languages of Japan. Cambridge, UK:Cambridge University Press. (p.192を参照)
【キーワード】
方言の東西対立のパターン(例:「マック」 vs. 「マクド」,「片付ける」 vs. 「直す」),方言区画論,等語線,東西対立型(AB分布 例:西日本「カライ」 vs. 東日本「ショッパイ」,西日本「オル」 vs. 東日本「イル」),相補分布,周圏分布型(ABA分布 例:「蝸牛」,女性を表す「メ」「ヲミナ」「ヲンナ」「オナゴ」「オンナ」)
【本講義の内容】
・「方言調査:地域的なバリエーション」(2)
[本講義では、「あさっての翌日(明々後日)」「あさっての翌々日(明々々後日)」をどう呼ぶのか(シアサッテ vs. ヤノアサッテ vs. ササッテ)を例に取りながら、言葉の伝播の仮説を立て、検証します。また、歴史的変遷ばかりでなく、人々がこれらの言葉、たとえば「サアサッテ」や「シアサッテ」をどのように捉え、その翌日の名称にどのような影響を与えたのか、認知的解釈を考察します。]
【キーワード】
若者語の4分類(「一時的流行語」,「コーホート語」,「若者世代語」,「語形変化」),発音労力の軽減(例:順行同化,逆行同化),言語体系の合理化・単純化,共通語化,言語内的要因 vs. 言語外的要因,ピジン,クレオール,2方言使用,過剰般化,化石化,海外の日本語使用(移民),単純化,借用語,古い語彙・表現の保存